redditにポストされたLunatic-Haiでコーチを務めているAlwaysoov氏のLH対Rogue戦のレビューまとめです。
分量は多いですがとても興味深いことが書かれています。プロフェッショナルなコーチの優れた洞察力に感心したのと、今日はまとめる時間もとれたので久しぶりに記事にすることにしました。
このレビューを読んでオーバーウォッチは自分が思っていた以上に(プロレベルでは)戦術的で駆け引きに富んだゲームであることを再認識した次第です。
尚、実際のレビューは同コーチ自身のチャンネルで配信されたものです。
Lunatic Hai Coach Reviews Rogue vs Lunatic Hai Match
- 今シーズンのLHのコントロールマップ勝率はRogue戦まで0%。そのためチームはそれまでのKDPとMighty AOD戦の反省をもとに多くの練習を重ねた。
- LHのコーチはRogueがネパールで3DPSではなく2/2/2を使ってくることを予想していた。そのためLHは主導権を握るために開幕からNicoのDVAを破壊する3DPSを使うプランを用意していた。ただし、コーチは最初のコントロールでは念のため2/2/2を使うよう指示していた。
- コーチは序盤の戦闘でRogueのプランがZunbaのメックを全力でフォーカスしにいくというものであること気づいた。そのため最初は苦戦した。Unkoeのディスコードは終始Zunbaに付けられていた。
- この日、Escaの調子はとてもよく、彼自身も「とても自信がある」と話していた。コーチも今日のMVPは疑いようもなくEscaと述べている。
- コーチはNico(Rogue)のゲンジがAPEXを通して調子が悪いこを少し残念なことだと感じているようだ。AMMやRibvalcadeでNicoのゲンジは素晴らしかった。おそらく彼はまだLANトーナメントに慣れていないのかもしれない(APEXでNicoは常にナーバスな表情を見せている)。
- コーチはEscaにパルスボムをNicoのDVAとKnoxxのウィンストンのみに使うように指示していた。それもあり、コーチはEscaがハリウッドのラストポイントでAKMのソルジャーにボムを貼り付けたことに驚いていた。Soonのようなプレイヤーは別としても200HPヒーローにボムを貼り付けるのは難易度が高く、EFFECT(nV)でさえもタンクを狙う傾向が多い。
- このシリーズでAKMはベストなプレーを見せていた。今日の試合でもLHを最も手こずらせた一人だった。コーチは他のプレイヤーがソルジャーをプレーしていればもっと楽な展開になっただろうと述べている。コーチは彼のようなソルジャーは今まで見たことがないと語り、控室でAKMのソルジャーを見ていた彼は無意識のうちに「くそ、なんてすごいトラッキング(エイム)なんだ」と何度も呟いていたという。
※Folw3rもOGNのインタビューでAKMのソルジャーはクレイジーと話している。
- コーチはLHが最初のコントロール(ネパール)を取れば3-0から3-1で勝てるだろうと考えていた。そのためプレッシャーはLHではなくRogueにあるから自信を持てと何度もメンバーに言い聞かせていた。
- Ryujehongがハリウッドでザリアを使用した狙いはUltではなくバリアにあった。現在ではザリアのエネルギーを高く維持するのは難しく、彼女のピックレートが低いのはそれが原因でもある。しかし、コーチは防御目的のバリアを使わせるためだけにJehongにザリアを使うよう指示した。LHが最初のプッシュ(ターン)に失敗すれば苦戦することになるが、上手くいけば簡単にポイントAが取れることがコーチには分かっていた。
- ウィドウメーカーは囮ないし相手を釣る(bait)ために投入した。キルを意図していたわけではない。ウィドウはハリウッドのようなマップでは敵の誰よりも早く屋上のポジションを取ることができ、それだけで彼女を使う十分な理由になる。相手がウィドウを狙いに来れば、代償として相手チームのバックラインは崩壊することになり、ハリウッドのセカンドセクションでウィドウをピックオフ(キル)することは相手にとって簡単なことではない。コーチによると、スクリムでこの戦術は韓国のトップチーム相手にはうまく機能しなかったが、Rogueはこの戦術に対応する準備ができてないだろうと予想していた。この戦術が容易にハマったのはRyujehongが普段のスクリムよりも上手くウィドウをプレーしていたからでもある。コーチも正直この日のJehongのウィドウに驚いていたくらいだ。もし、Jehongのウィドウが上手くいかなかった場合のプランBもコーチは用意していたという。
- コーチはRogueが何故ハリウッドを選択したのか、彼らのオフェンスを見た後でそれを実感することになった。RogueはLHの3ヒーラーコンプへの準備ができていた。そしてSoonがすぐにトレーサーからマクリーにスイッチした時、コーチには彼らが3ヒーラーに対応していることが見えた。EscaがUnkoeによりファーストキルされ(first blood)、コーチはLHがポイントAで苦戦するだろうことを悟った。通常であればEscaが復帰するまでチームは一旦退いて態勢を立て直すが、RyujehongのディスコードがSoonのマクリーに付いているのを見たMiroは強気にキルを取りに行った。結果的にMiroのジャンプは遠くにはずれ逆にキルされてしまう。そしてポイントAはスノーボール式(雪だるま式に一方に形勢が傾いていくこと)にRogueに奪取されてしまう。
- Rogueがハリウッドのセカンドポイントの最後(スタジオ内部に入るゲート前)で、Knoxxのプライマルレイジを除き全てのUltを使い果たした時、コーチはハリウッドでのLHの勝利を確信した。もしAKMのソルジャーがタクティカルバイザーをセカンドポイントを取るまで温存していれば違ったシナリオになっていただろう。
- Rogueのコンプで最大の弱点がゼニヤッタだ。Unkoeがチームと分断された場合、彼らが何もできなくなることはKDP戦で明らかになっている。LHは常にそのことを意識して戦い、AKMではなく、まずUnkoeにフォーカスしている。WhoRUは主にそのとどめを刺すことを任されていた。
- セカンドマッチ後の休憩で、コーチはサードマップでチームが手を抜くようなことがあれば、コーチは彼らを手厳しく戒めるだろうとメンバーに警告していた。APEX S2でLHがMisfitsを相手に2-0でリードしていた時、彼らは準々決勝進出を決めたことでサードマップのアヌビス序盤で手を抜いたことがあった。あの時アヌビスを落とせば第一シード権を失い準々決勝のグループと対戦相手を選ぶ権利も失う可能性があったためコーチは本気で怒っていた。それ以降、コーチはメンバーにより多くの規律を植え付けている。
- ハナムラでは防衛側のRogueは最初のターンをしのいだものの、SoonのソンブラはEscaにファーストキルを取られたためUltのチャージを貯めることができなかった。同時にAKMのDVAもLHのセカンドプッシュ(第二ターン)よりも前に破壊されてしまった。コーチは次のターンでポイントAを奪取できると確信していた。
- コーチは1年近くRyuのアナを見てきたが、今でもなお素晴らしいと話している。ハナムラポイントBのプッシュにおいて、彼の存在は絶大であった。
- ハナムラ防衛のような例外的なコンプでしかあまり出撃する機会はないがWhoRUはとてもよいトレーサー。
- Miroはジャンプで飛び込んだ際にAKMとUnkoeが常にフォーカスしてくるので今日の試合で生き残るのは難しいだろうと感じていた。更に彼は今、ひどい風邪を患っており週明け月曜日に病院へ行く予定となっている。既に彼は2週間も風邪をこじらせているためコーチはこれをとても心配している。
- ハナムラ防衛でコーチは正直なところ最後はRogueにポイントBを奪取されるだろうと思っていたが、Tobiのミラクルな心頭滅却によりそれを防ぐことができた。Tobiは本来トレーサーがメインのDPSプレイヤーであり、LH加入後にサポートに転向している。コーチ曰く、Tobiのエイム力はとても優れておりHarryhook並と評する人もいる。
AlwaysoovコーチはRogueのチームワークにいくつか問題があることを指摘している。LHはそれらに付け込み今日の試合をモノにすることできた。それらの問題は大きく3つに分けられる。
1.
Rogueの選手達はUltimateを「スキル(アビリティ)」のひとつとして捉えており、チャージされたらすぐに個人で使う傾向にある。他のメンバーとのスキルやUltと合わせるために温存することがない。コーチはRogueがUltをカウンターやリアクションの手段ではなく常に主導権を得るために「真っ先に」使う傾向にあることを指摘している。そしてLHはそれを巧く利用したとも話す。その最たる例がWinzはサウンドバリアを相手がなにも仕掛けていないのに戦闘のきっかけとして度々使うことがあり、Unkoeは乱戦時やSoonのトレーサーの護衛のためだけに心頭滅却を使うことこともあった。この傾向はAPEX以前のOMMやRivalcadeから見られ、KDPやMigthy AOD戦でも見られた。コーチはこの戦い方はとてもリスキーであると話している。理由はまず第一にそういった使い方にプレイヤーが慣れてしまうと、タイミングなどが予測しやすく、そして第二に、相手チームにとってはUltが終わるまで身を引いてやり過ごしさえすれば、そのUltを無駄に消費させることができる。オーバーウォッチにおいてUltmiateのベストな使用方法は相手が仕掛けてきた時のカウンターの手段として使うことであるとコーチは考えている。主導権を得るためにUltを使うことは、概してより効果的に使える機会を逃すことになる。現在のオーバーウォッチの心理戦において重要な要素のひとつは、如何にして相手にUltなりスキルを先に使わせるかという点にあるとコーチは話している。例えば、先に相手のウィンストンが味方のバックラインに飛び込んでくるように仕向ければ、相手のウィンストンを返り討ちにしてから5対6という状況を作れるし、相手のゲンジが真っ先にダッシュしてくるところを待ち構えて狩ることもできる。
2.
その他Rogueに見られる問題点として、個々のプレイヤーが秩序立ってUltを使うのではなく、複数のプレイヤーが同時にUltを使う傾向にあるとコーチは指摘している。WhoRUはドラゴンブレードをキルではなく、Rogueが放つUltを複数誘発するために使うよう指示されていた。何故なら、コーチはRogueがWhoRUのUltひとつに対するリアクションとして少なくとも2~3つのUltを同時に使ってくることを知っていたからであり、それがRogueの戦い方の傾向でもあった。この点、コーチはUltエコノミー(コスト、チャージタイム、効果などを考慮したUlt一発あたりの効率性や価値)を意識して事前のプランに合わせてUltを最大限に活用している欧米のチームはEnVyUsだと考えている。
3.
Rogueのコンプはとても予測しやすいものだった。LHはこの日のRogue戦まで3週間ほどの時間があり、コーチはRogueの2/2/2なり3DPSコンプに備えるためには十分な時間であったと話している。コーチは昨年のAPAC決勝でRogueに敗れた借りを返すことができたと喜んでいた。彼はRogueに4-1敗れたその時もLHのコーチを務めていた。
- コーチによると会場にいたLeetajunの隣に座って彼と話をしていた人物はMunchkin(※)であるとのこと。またLHは今後新たなメンバーをリクルートする予定ではあるがまだいつになるかは決まっていないと話している。
※4月にLH加入が発表されたものの、その後、過去にゲーム内での振る舞いに問題があったことが明らかになり、さらに所属していたRinos Gamingのコーチのアカウント名をサブアカウントに使ってプレーしていたことが発覚しLH入りが消滅。現在はLazer Kitten所属。
- 通常コーチが先発ロスター6人を決定するのは試合の5日前。コーチがDPSにGidoよりもEscaを選択した理由は経験。Rogueは経験豊富なチームであり過去にRogueと対戦したこともあるEscaを選択している。試合が序盤に思い通り運ばなかったとしても、EscaをGidoに変える予定はなかったとコーチは明らかにしている。
- コーチはマップごとに異なるチーム構成や戦術を複数用意している。こういったプランをアレンジすることで有名なのがLW Blueのコーチで現在のシーンで最も洗練されたコーチといえる。LHのコーチ曰く、コーチをやっていて最も興奮する瞬間は、新たな戦術を実戦で試したときにメンバーがそれを完璧に遂行した時であるという。そして今日の試合がまさにそうでありチームを誇りに思うと述べている。
- LHは準々決勝で、少なくとも韓国のトップ5に入る2チームと対戦することになりコーチはチームにとってタフな状況になることを覚悟している。それらのチームのコンプや戦術は予想もし得ないものであり、準々決勝を勝ち抜くことはとても困難な道のりであると語っている。準々決勝で2勝(準々決勝は4チームずつ2組に別れたグループステージ)してプレイオフまで勝ち抜けば再びファイナルに進出することは可能であるとも話している。
- コーチが現時点で最も警戒しているチームはAF Blueであり、今のところ最も優れたチームでもあるとのこと。彼が注目しているプレイヤーはタンクのManoで、AFBがLHと対戦した時は彼が最大の脅威になると見ている。ちなみに、ManoとMiroはオーバーウォッチがリリースされるずっと前からの友人同士でもある。
- EFFECTに関して(nVのEFFECTがMeta Athena戦で活躍した時、LHが入団テストで彼を採用しなかったことで、コミュニティはLHのコーチを批判している)。彼はLHのトライアルがあった日に遅刻している。そしてコーチは彼のプレーを見た時にLHにどうしても加入したいという情熱を感じることができなかったとも話している。EFFECT自身もインタビューでそのことを認めており、彼曰く、「7人目」というポジションをやや不満に感じていたようで彼はどんなチームであれメインロスターとしてプレーすることを望んでいた。
- コーチは試合を観戦している人々がプロ選手のプレーに対してあまりにも偏った見方をしているとコメントしており、プロ選手のプレーを批判する際にはもう少し懸命になるべきだと説いている。例えばプロ選手がゲンジのドラゴンブレードで0キルに終わった時、人々はすぐにUltが無駄になったとしてお約束のようにNA ULT(NAのようにレベルが低いというい意味のミーム)とチャットにスパムする。しかし、コーチはそれもすべては相手チームのリアクション次第であると説明する。彼曰く、もし、ゲンジのUltが相手ルシオやゼニヤッタにUltを使わせることができれば、その時点でドラゴンブレードは100%成功であるという。何故なら、ここ最近ではゲンジのドラゴンブレードで1キル取ることすらも難しくなっているからだ…少なくともAPEXレベルにおいては。韓国チームはドラゴンブレードへの対処にとても慣れているため、今現在ゲンジのUltはキルが真の狙いではなく、相手チームのUltを複数誘発させるために使われている。おそらくコーチのこのコメントは、AF Blueがチームとして非常に上手く機能しているにも関わらず、Arhanのドラゴンブレードを「使えない」と批判する人々に対して向けらたものではないかと思う。
- EnVyUsとBK Stars戦は人々が考えているよりも接戦になるだろうとコーチは考えている。そして非常に見応えのある試合になるとも。
- コーチは海外でオーバーウォッチのビッグトーナメントがあまり開催されていないことについてやや危機感を抱いている。全てはOverwatch League次第だが、その成功を心から願っているとのこと。もしOWLが失敗した場合、いずれは韓国のシーンも滅びるであろうと考えており、彼はそれを最も恐れている。彼はNAとEUのシーンがより大きく成長し、いずれは韓国チームがAPEX以外のビッグトーナメントに招待されることを望んでいる。